【インタビュー】竹中 裕深 先生 ~自分なりの表現を~

オーケストラ部での活動

竹中裕深
スタッフ:チェロを始められたきっかけを教えてください。

竹中:中学に入学した時に、ヴァイオリンに憧れてオーケストラ部に入部しました。
ですが、ヴァイオリンを希望する生徒は多く、先着順で既に締め切っていた為、希望は叶いませんでした。
当時、私は弦楽器のことをほとんど知らず、「チェロかコントラバスをする?」と聞かれてもピンとこず、小柄なこともあって、チェロを担当することになりました。
ヴァイオリンをしたかった気持ちもありましたが、後になって考えれば、あの時にチェロに出会って、本当に良かったなと思っています。

スタッフ:オーケストラ部の活動はどういったものでしたか?

竹中:
中高一貫校だったので、オーケストラ部には6年間所属していました。
大所帯の部活で、部員は100人以上おり、先輩に教えていただきながら毎日練習しました。
交響曲や弦楽合奏曲など、専門的な曲に取り組み、6年間でたくさんのレパートリーを習得しました。

スタッフ:最初の段階で、本格的なことを学ばれていたのですね。
そのような環境の中で、音楽での進学や、音楽でお仕事をしていくことを決められたのですか?

竹中:いいえ、そうではないんです。
その時の私は、チェロをクラブ活動という枠でしかとらえていませんでした。
なので、高校卒業後は、栄養士の資格を取得するための大学に進学しました。
でも、通い始めてすぐに、自分があまり積極的に勉強していないことに気が付き、次第に「私は栄養士に向いていない」と感じるようになりました。それで、半年で退学したんです。

スタッフ:そうだったんですね。私は昔から竹中先生にお世話になっていましたが、そのことは初耳です!

自分で、したいことを見つけた

竹中:それで、退学後に、「自分は何をしたいんだろう?」と考えたときに、「やっぱりチェロだな」って思ったんです。
中学・高校での経験に加えて、高校卒業後もアマチュアのオーケストラに所属して続けていたという事は、自分はやはりチェロが好きなんだな、「もっと頑張っていきたい!」と思いましたね。

スタッフ:そうだったのですね。ご自分で決断して即行動されるの、かっこいいです。

竹中:
大阪音楽大学に入学後、オーケストラの授業では、これまでの経験を生かして活躍できたのに対し、ソロは、ほぼ経験がなかった為、初歩からのスタートになりました。
また、それまでは先輩に教えていただいていましたが、大学で先生に習うようになると、弓の持ち方などの基礎的なところから、改めて指導していただきました。

期待される以上の演奏を

スタッフ:先ほど少し触れましたが、私が学生だった頃、竹中先生と一緒に演奏させていただく授業を受けて、それがすっごく楽しかったんです!
あの時、竹中先生は「演奏員」として授業に参加してくださっていたのだと思いますが、そのお話を聞かせていただけますか?

竹中:
そうですね。大阪音大で「演奏員」という立場で、授業の中で学生さんと一緒に演奏しています。
お仕事でありながら、素晴らしい学生さんたちと一緒に演奏できて、先生方からの指導を受けられて、さらにその成果を学内のミレニアムホールで披露できる、こんなに恵まれたことはないと思っています。
この「演奏員」に限らず、どのお仕事でもそうだと思いますが、「誰に弾いてもらっても同じだな」とか「竹中って何年経っても同じような演奏しているな」などと思われてしまうと、終わりだと思うし、
「チェロはヴァイオリンに寄り添っていればいい」ではなく、期待される以上の演奏や表現をしなければ!と思います。

スタッフ:私はあの授業を受けて、先生がそう思っていらっしゃる気持ち、伝わってきました。
竹中先生と、更にあとお2人の先生が、一緒に参加してくださる授業だったのですが、その3人の先生方の、音楽への取り組み姿勢や、音楽との向き合い方、また先生方との関わり方を見て、
私の音楽に対する考え方はかなり大きく変わりました。
今になって思えば、あの授業は私にとって、音楽の出発点だったような気がしています。

竹中:
そうだったの!(笑)演奏員の仕事を毎年させていただいていますが、あの時の私は、ちょうど出産直後(2ヶ月後!)で、育児と練習に必死でした。
日中に練習する時間は全くとれなかったので、子どもを寝かせてから、夜中の12時から練習していました。
毎日5~6時間弾いていた頃と比べると練習時間は減りましたが、そのときの1時間というのは、これまでに経験のないほど充実した時間で、母は強いな!と感じました。

スタッフ:そんなに一生懸命、取り組んでくださっていたのですね・・・。ありがとうございます・・・。
演奏活動は、他にはどういったものをされているのですか?

竹中:知り合いのミュージシャンからお声をかけていただいて、ブラジリアンやジャズの演奏活動も行っています。
ブラジリアン(ブラジルの音楽)と聞くと、ボサノバやサンバを思い浮かべる方も多いと思いますが、
日本の歌の中にも演歌やポップスなど様々なジャンルがあるように、ブラジリアンの中にも、しっとりとしたものがあり、そういう曲を弾くことが多いです。
所属しているブラジリアンのユニットでは、歌声のハモリでチェロの音を入れることがあります。
チェロの音は歌声を邪魔せず、自然に馴染む、そういう魅力もあるんですよ。

習う時期や場所

小坂井悠
スタッフ:さて、次に講師のお仕事のことをお伺いしたいのですが、音楽院では、年中さんから小学6年生までの「キッズレッスン」を担当してくださっていますよね。
子どもさんに教えられる時に気を付けていることはありますか?

竹中:それぞれの子によって個性があるので、その子に1番ヒットするのはどこなんだろうか?と探りながら、
まず楽器を弾いてもらうこと、その上で、私が伝えたことを理解してもらうことがなかなかできずに悩みました。
でも、自分自身の子育ての経験も生かして考えたときに、子どもたちは1年に1回の発表会で演奏するために、技術的なことを身に付ける必要がありますが、
それよりもまず、「楽しんで1曲を最後まで弾く」という経験を、してもらいたいと思うようになりました。

スタッフ:チェロを習うにあたり、小さいうちから始められたほうが良いと思いますか?

竹中:
音楽高校のオーケストラのエキストラ(臨時団員)の仕事に行ったときに、指揮の先生が素晴らしい音楽作りをされていて、
「高校生のときに、こんな指導を受けられるのか!こんな所を知っていたならば、この高校に行きたかったな」と思いました。
その高校に入ることを逆算して考えると、小さい頃から習う必要があると思います。
それに、プロになるかならないかに関係なく、選択肢が広がると思います。
ただ、私は小さい頃からたくさん遊んで、音楽中心ではない生活をしてきたことで、いろいろな経験ができたとも言えるかもしれません。
もちろん、小さい頃から音楽を志していて、且つ視野が広い方はたくさんいらっしゃいますが、私は音楽以外の異ジャンルの方々とも関わってきたからこそ、知っている強みもあるのではないかと思っています。

スタッフ:保護者の方の中には、ヴァイオリンかチェロか、どちらを習わせよう?と悩んでいる方もいらっしゃるかもしれませんが、
そういった方にはどういうふうにお伝えしたらいいですか?

竹中:相対的にいうと、ヴァイオリンのほうが一般的に知名度もあり、習いに行ける場所も多いです。
先生の人数や教材の数も多いと思うので、選択肢が多いのはヴァイオリンなのかもしれません。
でもそれは今までの歴史的なことであって、その子がどちらの楽器が合うかということとはまた別です。
だから、まずは両方の楽器を触ってみて、子どもさんがどちらに興味を示すかを見ていただくのが良いと思います。

スタッフ:竹中先生は、大人の生徒さんも教えていらっしゃるのですか?

竹中:はい。キッズレッスン以外に、マンツーマンレッスンで大人の方もみています。
大人になってから、チェロを弾いてみたいとおっしゃる方も多いんですよ。
1年前から音楽院でレッスンしている大人の方は、10年ほど他の教室でチェロを習われた後、音楽院に通われています。
先日、この1年を振り返って、「先生に習ったこの1年は、今までの10年とは全然違う。やっぱりここに来ないとダメだったわ」とおっしゃって頂きました。
もちろん、最初の10年に身に付けたことがあって、この1年があると思います。
これまでに学んだことは大切だったと思いますが、音楽大学という専門的な場所でレッスンを受けることで、実力がぐんと伸びる可能性は高いと思うし、そういった経験をしていただけて良かったなと思います。


人としての関係性を大切にしたい

スタッフ:講師として、演奏家として、竹中先生のこれからの目標を聞かせてください。

竹中:まず講師として、『人』対『人』としての信頼関係をもって、レッスンを続けていける講師になりたいと思います。
演奏がうまくなるだけではなく、人として、その子が成長してくれるような関係性を築いて、それをその子がどこかで発揮してくれたらいいなと思います。
演奏家としては、レベルアップして、著名な演奏家の方々と演奏していきたい、というのもありますし、反対に隙間産業もしていきたいです。

スタッフ:隙間産業?

竹中:ザ・クラシックのチェロ!だけではない、チェロの産業もあると感じていて、例えばブラジリアンやジャズもそうです。
いろいろなジャンルの人たちと対等に演奏できるような力をもっとつけて、活動していきたいと、こっそり思っています。(笑)

スタッフ:最後の質問です。先生にとって音楽とは何ですか?

竹中:
音楽は、自分の転機でありましたが、自分の人生に感動と彩りを添えてくれる目に見えない財産だと思います。
転機というのは、最初にヴァイオリンじゃなくてチェロをしたこと、栄養士になろうと思ったけれど辞めて音大に進んだこと、
クラシックだけでなくいろいろなジャンルの音楽を演奏させていただいていること、1つちがっていると全然ちがう人生だったんだろうな、と思います。
音楽をすることは、1人でも出来ますが、チェロなどはやはり誰かと共に音楽を作っていく事が大半です。
自分1人では出来ないことも、他の誰かと関わることで世界が広がり、想像以上の感動や、色々な感情を受け取ったり、与えたり。
そこにも、音楽の醍醐味があると思います。
今の自分には何が出来るのか、技術はもちろんですが、自分自身が一番よく出るものだと思います。
少しでも向上し、人生に彩りを添えられる、感動出来る取り組みを目指したいと思っています。