【インタビュー】田中 奈都江 先生 2/2ページ目

大学に入って変わったこと

田中奈都江
スタッフ:大学に入られてからのことを、もっと聞かせてください。
入学されてからは、ピアノ専攻の学生や他の専攻生と出会って、何か変わりましたか?

田中:すごく上手な人がいて、自分はこのままではダメだと思いました。
新しく勉強することがたくさんあったので、1つ1つに一生懸命取り組みました。

スタッフ:一歩一歩、着実に 積み重ねてこられたんですね。

田中:特に試験には力を入れていました。
自分のピアノに成績がつき、評価されることは初めての経験でした。

スタッフ:田中先生は植田定和先生に習っていらしたんですよね。

田中:はい。私は、こう弾きたいという意志がはっきりあったので、自由にやらせてくださる先生がいいんじゃないかと、ずっと習っていた先生が、勧めてくださいました。

スタッフ:植田先生からご指導を受けるようになって、変わったことはありましたか?

田中:植田先生は、基本的には私の意志を優先して、弾かせてくださいました。
その中で、私が違う方向にいきそうになったときは、直してくださいました。
いつもとても穏やかに、見守ってくださいました。

スタッフ:最初は弾きたい曲を弾いていたとおっしゃっていましたが、大学時代もですか?

田中:入学当初は先生から課題をいただくことが多かったですが、3回生くらいからは、弾きたい曲を、先生にお伝えしました。
エチュードやバッハなど、基本のものをしながら、自分の弾きたい曲を弾きました。

スタッフ:その時もしっかりと伝えていらしたのですね。弾きたい曲というのは?

田中:リストの『2つの伝説』の第1曲を、3回生の試験で弾きました。
宗教的な曲なのですが、小鳥がお話する描写があったり、フランチェスコという聖人が小鳥に語りかけたり、物語性のある曲です。
その時から、作曲家のことや作品の内容などについて、自発的に勉強するようになりました。

弾きたい曲の探し方

スタッフ:弾きたい曲はどうやって探していたのですか?

田中:大学の視聴覚室です!
視聴覚室にはCDやLPなどもすごく豊富にあって、ピアノのコンサートの映像もあったので、よく聴きに行っていました。

スタッフ:それって自主的に行っていらしたのですか?

田中:自分だけではなく、先生から「いい音楽をたくさん聴きなさい」と言われたんです。
私は知らないことがたくさんあったし、この人の演奏聴いたことないな、と気づいたらそれを聴くなど、次々と聴きたいものが出てきました。

スタッフ:すごいですね・・・。すごく真面目な音楽学生だなと思いました。

田中:そこまでじゃないですよ。
ただ、大学に来ると聴いておかないともったいないというか、聴かないと、という感覚がありました。
大学以外では、ぼさっとしていましたよ。(笑)

大学卒業後は専攻科、大学院へ進学

田中奈都江
スタッフ:大学卒業後は専攻科に進まれたんですね。
もう少し勉強したいというお気持ちだったんですか?

田中:そうですね、まだ勉強していないことがあまりにも多いなと思って、専攻科に進学しました。

スタッフ:そして1年間専攻科で勉強されて、更に大学院へ進学されたんですね。

田中:そうです。ピアノの仕事をするにあたり、院で勉強することは、すごく経験になると思いましたし、行かないといけないという思いがありました。
実際、大学4年間でできなかったことを勉強できたので、本当に行って良かったと思いますし、通わせてくれた親に感謝しています。

スタッフ:ピアノを仕事にする為に、ピアノの勉強以外に、何かしていましたか?

田中:話をするのが苦手だったので、少し勉強しました。
最近コンサートでも、曲のことをお話してから弾くというスタイルが増えてきていると思います。
また、ピアノ講師としては、子どもさんや、反対に自分より年上の方に教える場面も多いので、
相手に伝える話し方や、言葉の使い方について、そういう本たくさんありますよね、少しずつ読んでいました。
もちろん、教える中で学ぶこともたくさんあります。

「言葉にする」こと

スタッフ:私の経験では、話すことが苦手な人は、思っていることを言葉にできない人と、自分が何を思っているか分からない人がいるように思うのですが、先生はどちらでしたか?

田中:あー、なるほど。私は思っていることを言葉にできないほうでした。
レッスンを受けている中で、先生に質問されても、言葉が出ないことがよくありました。
また、自分の話が相手にどう思われるかを考えてしまう性格で、話すのが怖いという感覚もありました。
だからわりと、黙って考えてから喋っていたんです。

でも、ピアノの先生に「それだと逆に伝わらないよ。何考えてるんだろうって思われるよ。ストレートに言ったらいいんだよ」って言われて、変わろうと思いました。
今は、ピアノを教えるというのは、人と人のコミュニケーションだなと、心が繋がっていないといけないなと思っています。

スタッフ:子どもさんにレッスンされるときは、何か工夫されてますか?

田中:子どもさんに言う場合は、普段その子が使っているような言葉遣いで、ポンと言うと、すっと入ってくれるように思いますね。

スタッフ:生徒さんお1人お1人と会話をしていく中で、この子はこういう言葉が響くのかなというようなことを考えていくわけですね。

大好きな作曲家

スタッフ:大学院ではリストを専門的に勉強されたんですよね。

田中:はい。専攻科の時はシューマン、院の時はリストのことを勉強しました。

スタッフ:それぞれの好きなところを教えてください。

田中:シューマンにはすごく親近感があります。
シューマンは作品の中で、フロレスタンとオイゼビウスという架空の人物を使って自らの二面性を表現しましたが、私自身にもいろいろな面があって、シューマンと感覚が近いような気がしています。
また、シューマンはあまり話すことが得意でなく、自分の中に閉じこもって考えていた性格かなと思うのですが、そういうところにも惹かれます。
それにシューマンは文学が好きで、作品の中にも文学とのつながりが強く表れています。
私も昔から本を読むのが好きだったし、物語性のある作品が大好きなので、そこも好きなところですね。

リストは、曲がほんとに好きです。
一言で曲と言っても、若い時のきらびやかで華やかな曲の一方で、晩年の楽譜を見ると、びっくりするくらい音が少なくなっていて、リストは生涯に渡って幅広く、いろいろな曲を作ってるんです。
さっきのシューマンと重なるようですが、どの曲にも物語性を強く感じるし、そこが一番好きだなと思いますね。
きらびやかな曲の中で、ここは特に言いたい!っていうポイントがあって、気持ちをぐっとつかまれる感じがして好きです。

スタッフ:2人の作曲家に共通するのが「物語性」なんですね。
そして、リストが作品の中で、特に強く訴える場面があるという考え方は、ここまでにお話を伺ってきた田中先生ご自身の特徴とも重なります。
それぞれの作曲家で1番好きな曲を教えてください。

田中:シューマンは自分が弾いた思い出も深くて、謝肉祭。専攻科の最後の試験で弾いたんです。
リストはソナタロ短調です。リストのソナタはピアノ曲の中で1番好きですね。大好きです。

スタッフ:リストのソナタは田中先生にとって特別な曲なんですね。

田中:そうですね。弾いたときの思い出もありますし。
本当によくできた曲だなと思って、何回聴いても新しい発見があるんです。

最後の質問

スタッフ:最後の質問です。
これ、恒例のコーナーにしたいなと思ってるんですけども。(笑)
あなたにとって音楽とは?

田中:そうなんですね(笑)

スタッフ:お願いします!

田中:大好きなもので、音楽が足りなくなると自分も一緒に元気がなくなるというのか・・・栄養!自分の栄養かなって思います。
音楽をしていると、ピアノを弾いていると、癒されるなと思うので、すごいざっくり、栄養ですね。
ピアノを弾くことによって自分がいい状態でいられます。
そうやって勉強して少しずつ自分の中に栄養を入れて、教えるときには子どもたちにその要素をちょっとだけ入れさせてもらいたい。
そして子どもたちに、その中の何か1つでも残っていたらいいなと思います。

スタッフ:素敵なお言葉をありがとうございました。
お話を伺うことができて、とても楽しかったです。
もう1時間も経ってますね!
今日はありがとうございました。

田中:ありがとうございました。

最後にインタビューをさせていただいたスタッフと。

田中奈都江