特別講座・イベント

地球の音楽誌 神の祭り・人の祭りVol.5-華麗な喧騒、カトマンズの音風景

2007年11月17日実施
【講師】

西岡信雄(にしおか のぶお):大阪音楽大学教授[音楽人類学]

【講座内容】

ネパールの祝日、首都カトマンズの目抜き通りはお祭りムード一色に染まります。横笛バスリの鼓笛隊を先頭に、王室騎馬隊の雄姿、弓型に湾曲した長大ラッパ“ナルシンガ”の行進、神を呼ぶラッパ“ポンガ”のファンファーレ、女神たちの仮面舞踊“アスタ・マトリカ”、轟音が鳴り響くチベット仏教僧の行列、踊りながらの仕立屋さんバンド、弦楽器サランギを手に弾き語るネパールの吟遊詩人“ガイネ”たち‥‥などなど。歩道を埋め尽くす市民の喧騒を縫って、この国ならではのユニークで華麗な音楽行列が続きます。

【受講者によるイベントレポート】

 2001年に起こった王族殺害事件をはじめ、まだまだ政治的混乱が続いているネパール。その首都、カトマンズのお正月の祭りから映像は始まった。騒がしいラッパやチャルメラ、樽型の太鼓に、変わった形のサーランギと呼ばれる弦楽器など、私たちから見たらとても珍しい楽器がこの国の人々の祭り事には使われている。楽器の形や奏法にも興味を覚えたが、何より、それぞれの楽器を使える人が職業カースト制によって決まっていて、それが今日でも守られているということに驚いた。

 中でも私が面白いと思ったのは、「神様にだけ音楽が届く」というポンガと呼ばれるラッパの演奏。その村で「もっとも神に近い」とされる人だけが吹くことが出来、多くは世襲なのだそう。実際の映像では、「うーん」と思わず苦笑してしまうような雑音、二本一対で吹いているのにも関わらず隣の人と合わそうなどという気が全くない素振り。しかし、このラッパの「本当の綺麗な音色」は神様にだけ聴こえているらしい!こうした「信仰からくる行い」が日常生活の中に生きていることに、私は驚きとともに魅かれてもいる。

 今年の秋の初め、大学の裏の道を車で走っていた時のこと。地域の小さな祭りが行われていたようで、神輿を担いだ人々の列が道を塞いでいた。祭りがあることも、それが何の祭りかということも私には全く分からなかった。時間に追われていた私にはただ邪魔にしか映らなかったし、側道を歩いている人々や他の車も無関心に見えた。でも、その時、この神輿に何の意味があるのか分からないのは、ちょっと恥ずかしいような寂しいような気持ちがするなぁ、と思った。
 カーストによって職業も演奏できる楽器も人生も初めから決まっていることは、そうした伝統や制度のなかで生きていない私から見ると不自由に思えもする。しかしその中でこそ生き続けている祭りや音楽を見ると、複雑な気持ちになる。騒がしく鳴り響く色んな楽器の音は決して洗練されてはいないけれど、人の日々の生活の中にしっくりと根付いていて、そこに強く魅力を感じてしまうからだ。